「旅の本屋 via」がセレクトした書籍をご紹介。新刊で集めたものを中心に、ほんの一冊取り上げて、ご紹介いたします。
本を読むこと、壊れること

見出しは、『あいまいさを引きうけて』(かもがわ出版)の一章の見出しです。
同書は、ジブリの映画化も話題になったルグウィンの『ゲド戦記』の翻訳者であり、児童文学者でもある、清水眞砂子さんのエッセイや、敬愛する哲学者、亡き鶴見俊輔との対話が収められた一冊。
「本を読むこと、壊されること」は、2017年2月に東京都立多摩図書館で行われた講演を書き起こしたものです。
同館は、2017年1月に立川市から国分寺市(西国分寺駅徒歩7分)に移転した図書館。一般の図書館とは異なり、閲覧のみですが、東京マガジンバンクを開設して1万8000もの雑誌の所蔵数を誇り、児童書専門の部屋が設けられるなど、一度お訪ねいただきたい図書館です。
児童書を柱のひとつにしていることもあって、清水さんを招いての開館記念講演会を開催したのでしょう。
もともとは、「本の力、子供の力」という講演会名だったようですが、書籍に採録するにあって、改題されたようです。そのほうが、内容にもしっくり、そして刺さる、見事なタイトルです。
実は、このところ、「本を読むと心が豊かになる」をスローガンにかかげる読書運動に対して、私には大きな疑問が湧いてきているのです。そういう声を聞くと、私は、「では、その読書運動で大人たちは壊されていますか」と問い返したくなる。大人たちはでんと坐ったまま、良きものを子どもに伝えてやるといった、そんな立場で運動をやってはいないだろうか。もしそうだとすれば、それは文学からおそろしく遠くあるように思うのです。
私は、感動するということは、自分が壊されるということだとずっと思ってきました。(32p)
本を読むこと、壊されること
そんな本に自らこれからも出会いたいと思いますし、そんな本をご紹介していくことができればと思います。
『あいまいさを引きうけて』目次
働きかけないと言う豊かさも
Ⅰ
[講演]
本を読むこと、壊されること
Ⅱ
本のある小部屋
敗者としての子どもたちー『夜が明けるまで』が提起するもの
いかがわしさの中で
翻訳、そして人々の中へ
チボール・セケリのこと
Ⅲ
キングス・ミル・ レイン四番地で
ピアスさんの思いで [特別寄稿]菅沼純一
ふたの時間の出会う場所[インタビュー]フィリッパ・ピアス
Ⅳ
私の三冊
別の時、別の場所
『洟をたらした神』 文庫版解説
ヒトを人にしていくものは
半音のない世界
私であり、あなたであること/コンプライアンスの合唱の中で/異文化のはざまで
美術館で/クイーンズタウンの墓碑銘/おかしな会話/半音のない世界で
Ⅴ
問いを受けついで 対話:鶴見俊輔さんと
遅ればせの謝辞
アーシュラ・K・ル=グウィン追悼
無名の人に託した希望/日常の真実に詰めた『ゲド戦記』
あとがきにかえて
285ページ
清水眞砂子さんのインタビュー記事
生活クラブ
[本の花束2019年10月] どれほど文学に救われ、背を押されて前に一歩を踏みだしえてきたことか 清水眞砂子さん
『あいまいさを引きうけて』より
「学校で、勉強ができなくて、目をかけられたことがないという、そんな意識を持っている子どもたち」に対して
どうしたら、彼らの思考の枠を広げることができるか。考えてみれば、彼らが育つ過程で出会ってきた人は、家族や学校の先生など僅かな大人たちです。それ以外の人に、たぶん出会ってない。(中略)
しかも、本を読んでいない。本といっても、私のいう本は大半が文学作品ですが、そこにはそういう奇人変人がたくさん出てくる。でも、読んでいないのでそれも知らない。となると、彼らは本当に狭い自分の体験のなかだけで生きているわけです。そんな人もいるのか、そんな生き方もできるのかなどと、考えたこともない。(21p)
しみじみと頷いたり、がつんとやられたり、すてきなことばが詰まっています。
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