ペナン島ハーモニーストリートにてーはしがき10

本によって旅が広がり、深くなっていく、そんな経験を自身のマレーシア旅行を通して綴っています。最終回は、ペナン島の民族共生を象徴する旧市街ジョージタウンのハーモニーストリートをご紹介します。

人間は共存可能だ

これまでの繰り返しになりますが、『マラッカ海峡物語』の副題は「ペナン島に見る多民族共生の歴史」です。

淡路島の半分ほどしかない島に、マレー人のほか、ご紹介してきたように、華人を中心として、インド人やイギリス人、ポルトガル人、アルメニア人、日本人など、多様な民族、人種が足跡を残してきました。

この小さな島に多民族・人種が集えば、いさかいも起こります。すでに述べたように華人同士でも郷里を異にする集団によって争いがあり、1892年にはその会党間の武力闘争をきっかけに他の人種を巻き込んでの大暴動も起きました。『マラッカ海峡物語』の帯には、「人間は共存可能だ」とありますが、それは幾多の争いを乗り越えてのことです。

「はしがき1」に、ペナン島に行く前、マレーシアは、エッジが効いていないような気がして、旅先として食指が動かなかったと書きましたが、帰国してみると、反転しました。とっても興味深い国で、またぜひ旅したいと思っています。

ペナン島でテレビを見ていると、イスラムのヒジャブを着用したおそらくマレー人女性、インド人、華人があたりまえのように同じ画面に映っていました。マレーシアでは日常の光景でしょうが、自身にはすごくインパクトがありました。

教会やモスク、仏教、ヒンドゥー教寺院が一本の通りに

またペナン島ジョージタウンの南北を走るマスジット・カピタン・クリン(旧名・ピット)通りは、通称ハーモニー・ストリートと呼ばれます。この通りを歩くと、白亜の、東南アジア最古の英国国教会のセント・ジョージ教会、ペナン最古の中国寺院のひとつといわれる観音寺、さらにカピタン・クリン・モスク、そしてヒンドゥー教のスリ・マハ・マリアマン寺院が次々と現れます。まさしく「民族共生」を象徴するような通りなのです。

17年に行われた、イスラム教、キリスト教、ヒンドゥー教などの宗教指導者たちによるハーモニー・ストリート連帯ウォークの一枚。トップ画像も同じです。そこに描かれている人物は、インドのアブドゥル・カラーム元大統領。ジョージタウンは2008年に世界遺産に登録されましたが、同年、元大統領はハーモニー・ストリートにある宗教施設をそれぞれ訪れ、この通りは「人のハートとマインドを結びつける場所」「人の尊厳を物語る場所」と評し、それまでは観光向けだった「ハーモニー・ストリート」の意味合いを転換し、その価値を高める契機になったのだという)

ペナン島に着いて、2日目の夕刻だったでしょうか。散策途中、ハーモニー・ストリートに偶然行きあたりました。すると、ヒンドゥー教のお祈りが聞こえてきたと思ったら、そこにイスラムの礼拝を呼びかけるアザーンがかぶさってきたのです。この2宗教の音の重なりに、「おぉ」。思わず感動してしまいました。

左・スリ・マハ・マリアマン寺院と、右・尖塔が覗くカピタン・クリン・モスク
ヒンドゥー教寺院からカメラをパンすれば、モスクの尖塔が目に入ります

「民族共生」が絵に描いたようなバラ色のものではないでしょう。

経済がうまく回っているあいだはいいものの、苦しくなると、つい差異に目をむけて、それをあげつらう人も出てきます。現在、マレーシアはマハティール前首相の突然の?辞任で、3月に新しいムヒディンさんが首相に就いたばかり。選挙で選ばれたわけではなく、マハティールさんの辞任劇も相まって、国民の間で政治不信が高まっているとも報じられます。マレーシア経済の立て直しを期待されて、首相に返り咲いた前首相ですが、思うような結果が出なかったことも、辞任劇の要因のひとつではありましょう。

歴史は繰り返しますから、いつまた民族間の争いが表面化する可能性はゼロではありません。ただ、人種や宗教間の争いが絶えない、またそれが世界中で再燃しつつあるように見える近年において、マレーシア、ペナン島を訪ねた旅行者の目には、〝ハーモニー〟が、輪郭を描いているように見えたのでした。

ヤスミン・アフマド監督の映画『タレンタイム』を観て

昨年、マレーシアのヤスミン・アフマド監督の『タレンタイム』を鑑賞しました。マレーシア社会に残る人種間に壁があることも、それを乗り越えていく希望も、やさしいまなざしの下に描いた、本当にステキな映画でした。主人公の男子学生が聴覚言語障害を抱えていて、もうひとりの主人公の女子学生と手話で〝会話〟をするのですが、それがまた映画のエッセンスになっています。

『タレン・タイム』に会えたのは、うれしい出来事でした。

しかし、はたしてペナン島を旅していなければ、マレーシア映画に目がとまったかどうか。帰国後、『マラッカ海峡物語』などを読み、マレーシア、ペナン島へのさらなる興味が持続していなければ、映画館に足をむけていたかどうか。そもそも『プラナカン−東南アジアを動かす謎の民』を手に取っていなかったら、ペナン島を旅先に選ばなかったかもしれません。

これまで10回にわたって、ペナン島の旅に出かける前から出かけた後まで、自身の興味や関心の跡をご紹介してきましたが、ひとつの旅は、本とのめぐりあわせだけでも、もっと味わい深くなります。

どこだって、本を開きさえすれば、時空を超える旅人に。

旅に導かれ、本に導かれ、豊かな世界にふれて、日々をお過ごしください。

豊かな世界の感触を得ること、その感触の記憶は、これからのwith コロナ時代に、もっと求められることなのかもしれません。(了)

「旅の本屋via」はしがきでご紹介した本

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