ペナン島の華人か『BANANA FISH』と『牯嶺街少年殺人事件』ーはしがき5

2020年4月下旬、ネットブックショップの「旅の本屋 via」をオープンしました。本によって旅が広がり、深くなっていく、そんな経験を自身のマレーシア旅行を通して、お話します。今回はペナン島の華人からマンガや映画も……。

ペナン島で生まれた華人の会党

プラナカンの興味も加わって出かけたマレーシア・ペナン島の旅でしたが、実際に訪ねてみると、プラナカンだけでなく、秘密結社とも呼ばれた華人のコミュニティ(会党)がペナン島にはいくつも存在し、異国の地で幅を利かせてたくましく生きていたことに興味が移っていきました。

「はしがき2」に詳しくご紹介した『プラナカン––東安アジアを動かす謎の民』(著・太田泰彦/日本経済新聞社)にも、前回ご紹介した客家や福建など同郷出身者で組織された会党について書かれていました。

客家系のハイサン結社(The Hai San Society、海山)は、ペナンに拠点を置く一大勢力だった。(中略)
 ハイサンと敵対するもう一つの勢力、ギーヒン結社(The Ghee Hin Society、義興)は、広東人が中心となって結成し、福建人、潮州人で結成された組織である。二つの結社の間では、中国本土から呼び寄せた傭兵まで使い、血で血を洗う抗争が何年も続いた、仲間どうしで助け合うと同時に、敵に対して容赦はなかった

ペナン島に行く前は、頭に入っていないくらい読み飛ばしていたところで、本に登場する地の旅を経験して読み直すと、別の箇所が浮き上がってくるという、これも、旅と本が織り成す魅力であり、楽しみです。

ニューヨークの華人が活躍する『BANANA FISH』

個人的に、チャイニーズの移民と初めて出会ったのは、それは実際にではなくて紙上での話ですが、たぶん、吉田秋生の『BANANA FISH』でしょうか。2018年から始まったアニメが人気を呼び、旅行業会では、近畿日本ツーリストの『BANANA FISH』の聖地巡礼ツアーが、2019年のツアーグランプリ「国土交通大臣賞」を受賞して話題なりました。

自身は別コミ連載中、中学から大学時代にかけてコミックスをむさぼるように読んでいたので、四半世紀後の降って湧いたような『BANANA FISH』人気にびっくりしましたが、アニメとしての蘇りとはいえ、傑作は時代を超えるものです。ちなみに、吉田秋生作品に初めて出会ったのは、『カリフォルニア物語』ではなく、『河よりも長くゆるやかに』で、作中の空気感にめっちゃ憧れて、幾度もページを繰ったものです。

それはともかく、ニューヨークが舞台で、白人や黒人の国なのに、ショーターや李月龍といったチャイニーズが出てきたのが、ものを知らない中学生には新鮮に映ったのでしょう。

ジョン・ローン主演『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』

あと、もうひと作品、当時チャイニーズ・マフィアに出会っていて、それがマイケル・チミノ監督、ミッキー・ローク(猫パンチ! 『エンゼル・ハート』はカッコよかったんだけど)、ジョン・ローンの映画『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』です。

『BANANA FISH』の連載が開始されたのが1985年、『イヤー・オブ・ザ・ドラゴン』のアメリカ公開も1985年(日本は1986年)。くしくも同じ年です。1978年に中国の改革開放が決まり、翌79年に米中の国交が正常化して、これを機にアメリカ移民が再び増えていった結果、アメリカ社会の中で、中国人移民の存在が目につき始めたのでしょうか。単なる思いつきです。

エドワード・ヤンの傑作『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』

また話が脱線しました。

いや、脱線ついでに、もうひとつ頭に浮かんだことを申し上げると、映画『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』です。エドワード・ヤンの手になる、この傑作台湾映画は、1961年に実際に起こった中学生男子が同級生の女子を殺害する事件をモチーフに1950年代後半の台湾社会が描かれています。〝社会〟といっても大きな物語ではなく、小さな個人、個人の物語に当時の台湾、ひいては台湾と世界をめぐる状況が影を射します。

映画の中では、15世紀頃に遡って台湾に渡ってきた漢民族の「本省人」、1945年以降、国共内戦ののち、蒋介石とともにやってきた「外省人」との対立が描かれていました。

台湾にはほかに漢民族以外の「先住民」もいれば、福建省出身の本省人とは別に、広東省から渡ってきた「客家」もいます。九州ほどの大きさの島で、同じ中国出身にかかわらず、来島時期、出身地の別によって、支配、被支配、差別、被差別の関係が生まれました。

ペナン島は台湾よりさらに小さな、淡路島の半分ほどの広さしか持ちません。しかしそこでも、ご紹介したように、出身地の別が対立を生じさせました。福建、客家、潮州など、それぞれに方言(言葉)は異なるとはいえ、その地縁の強さは何なのか。それは学校のクラスの中ですら、グループが生まれるわけで、異国の地で、同郷、同じ言葉を話す人が集い、ひとつの利権をめぐって奪い合いが発生すれば、流血の事態も発生するのが道理なのかもしれませんが。

そしてペナン島の旅から帰ってきてしばらくしてから、2冊の本に立て続けに出会います。『バンコク謎解き華人廟めぐり』(著・桑野淳一 / 彩流社)と『マラッカ海峡物語––ペナン島に見る多民族共生の歴史』(著・重松伸司 / 集英社新書)です。

つづく

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